相続・不動産の一般的な豆知識|売却時の控除制度と注意点を完全解説のアイキャッチ画像(テーマ: 相続・不動産の一般的な豆知識)

導入

相続した不動産を売却するとき、最大3つの控除制度が使える可能性があります。被相続人の居住用不動産(空き家)を売る場合は最大3,000万円控除、相続税を納めている場合は取得費加算で譲渡税を軽減できます。ただし要件が複雑で、期限や併用ルールを誤ると制度が使えなくなるリスクがあります。2026年の税制改正では相続税評価の見直しが進み、実務判断がより重要になりました。本記事では、具体的な適用要件・判断基準・落とし穴を解説し、あなたが実際に行うべき手順を示します。


相続不動産売却時の3つの主要控除制度

相続不動産の売却に使える控除制度は、対象財産の性質や被相続人の状況で異なります。最初に3つの制度の全体像と使い分けを整理しましょう。

制度の全体像と選択肢

相続不動産の売却で活用できる控除は以下の3つです。

制度名 控除額 対象不動産 要件の厳しさ
被相続人居住用不動産売却特例(空き家特例) 最大3,000万円 古い戸建てのみ 非常に厳しい
取得費加算の特例 納めた相続税の一部 全不動産 比較的シンプル
自己居住用財産3,000万円控除 3,000万円 自分が住んでいた家 中程度

取得費加算の特例とは、相続した財産を3年10カ月以内に売却した場合に、納付した相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得税を軽減できる制度です。一方、相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。

いつ・どの制度を選ぶか

空き家特例は「小規模宅地等の特例」と併用できる、「居住用不動産の3,000万円特別控除」と併用できる一方で、「相続税の取得費加算の特例」とは併用できないため、複数の不動産がある場合は戦略的に使い分ける必要があります。

判断フロー(チェックリスト)

  1. 被相続人が居住していた古い戸建てか? → YES なら空き家特例の検討
  2. 自分が相続後に住んでいたか? → YES なら居住用3,000万円控除
  3. 相続税を納めているか? → YES なら取得費加算検討
  4. 複数不動産がある場合は、併用不可ルール(空き家特例と取得費加算は併用不可)を踏まえ、節税効果が大きい方を選択

被相続人居住用不動産売却の3,000万円控除の落とし穴

空き家特例は節税効果が大きい反面、適用要件が細かく、多くの相続人が適用条件を誤解しています。実務でよく見落とされるポイントを解説します。

適用要件の正確な理解

相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋であること、昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された家屋であること、区分所有建築物(マンション等)以外の家屋であることが基本要件です。

重要な点は、令和9年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円(注)まで控除することができます。(注)令和6年1月1日以後に行う譲渡で被相続人居住用家屋および被相続人居住用家屋の敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は2,000万円までとなりますということです。2026年1月1日以降、相続人が3人以上の場合は控除額が3,000万円から2,000万円に減額されます。

最大の落とし穴:「相続から3年以内」と「空き家のまま」

相続が始まった日から3年が経過する年の12月31日までに売却しなければなりません。期限を過ぎると一切使用できず、大幅な節税機会を失います。

さらに、相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付の用または居住の用に供されていたことがないことという要件があります。つまり、相続後に賃貸に出したり、自分や家族が住んだりすると、この特例は使えなくなります。相続したら、売却前提での計画が必須です。

古い建物の要件と建て替え時の対応

昭和56年5月31日以前の建築というのは、現在(2026年)で45年以上前の古い物件を指します。相続人が「建て替えてから売却しよう」と考えるケースがありますが、これは逆効果です。建て替えると新築扱いになり、昭和56年基準を満たさなくなるため、特例対象外になります。

活用の正解:古い家のまま売却するか、取り壊して土地のみで売却するのいずれかです。

老人ホーム入居時の特別ルール

相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋であることという要件がありますが、被相続人が老人ホーム等に入居していた場合、特別ルールで対応できることがあります。入居前の適用期間や医療機関での入院期間によっては、「実質的に居住」と判定される可能性があるため、該当する場合は早めに専門家に相談する必要があります。


相続税の取得費加算と譲渡税の組み合わせ戦略

複数の不動産を相続した場合、相続税と譲渡所得税の両方の負担を検討する必要があります。どの不動産を先に売却するか、相続税の何%を活用するかによって、節税効果は大きく変わります。

取得費加算の仕組みと計算

取得費加算の特例とは、相続した財産を3年10カ月以内に売却した場合に、納付した相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得税を軽減できる制度です。

具体的な計算例を示します。

ケース:相続不動産を3,000万円で売却する場合

  • 相続により納めた相続税(全体):500万円
  • 売却対象不動産の相続税評価額:2,000万円
  • 相続全体の課税価格:5,000万円

この場合、加算できる相続税額は以下の計算です:

加算できる相続税額 = 500万円 × (2,000万円 ÷ 5,000万円) = 200万円

通常、譲渡所得は「売却価格 − 取得費 − 譲渡費用」で計算されます。この200万円が取得費に加算されると、課税対象となる譲渡所得が200万円減り、譲渡所得税の負担が軽減されます。相続で取得した土地等を売却した場合、譲渡所得税を計算する際の取得費に加えることができるのは、売却したその土地等にかかる相続税のみとなりますので、各不動産ごとに計算が必要です。

複数不動産がある場合の優先順位

取得費加算の特例を利用することで、取得費に相続税の一部を加算可能であり、併用することで自己居住用財産を譲渡する場合の3000万円特別控除と組み合わせることで、大幅に譲渡所得税の負担を減らすことができるため、戦略的な活用が重要です。

売却順序の判断基準

  1. 利益が大きい不動産から売却する → 相続税額の加算効果が最大化される
  2. 3年10カ月の期限を意識する → 期限を超えると取得費加算が使えなくなる
  3. 空き家特例との競合を避ける → 空き家特例が使える物件と取得費加算対象の物件は別にして、併用不可ルール回避を検討

相続開始から3年10カ月以内という期限は、空き家特例の相続から3年という期限よりも長いため、急いで売却する必要はありませんが、相続税申告から3年10カ月以内(相続税申告期限から3年)という点に注意が必要です。

節税効果の概算シミュレーション

取得費加算がどれくらい効果を発揮するかは、売却価格と相続税額で決まります。売却利益が大きいほど、そして納めた相続税が大きいほど、節税効果は高くなります。

例:売却価格1億円、取得費600万円、相続税300万円(売却物件に係る部分)の場合

  • 特例なし:譲渡所得 = 1億円 − 600万円 − 350万円(譲渡費用) = 8,650万円 → 譲渡所得税 ≒1,758万円
  • 特例あり:譲渡所得 = 1億円 − (600万円 + 300万円) − 350万円 = 8,350万円 → 譲渡所得税 ≒1,697万円

この例では約60万円の節税になります。利益が大きいほど節税額も増えるため、複数不動産がある場合はシミュレーションが必須です。


2026年の税制改正で変わった相続不動産売却の実務

2026年度の税制改正(令和8年度)では、相続税に関連する複数の改正が実施されました。不動産を活用した相続対策に直結する変更点を実務視点で解説します。

2026年度改正の最大ポイント:「5年ルール」と不動産評価の見直し

令和8年度(2026年度)の税制改正では、相続税の基礎控除や税率といった一般家庭の相続に影響がある見直しは行われていません。ただし、不動産オーナーや事業承継をされる方は、確認しておきたい改正項目があります。

最大の焦点は、2026年度(令和8年度)の税制改正では、相続開始5年以内に取得した賃貸用不動産の相続税評価額が原則時価評価となるという点です。これまで、相続直前に賃貸用不動産を取得することで、路線価による評価減を活用した節税が行われていました。新ルールでは、そうした短期的な節税スキームが使えなくなります。

令和9年(2027年)1月1日施行による実務への影響

令和9年1月施行の新ルール:「購入価格を下限とする評価」(3〜5年以内)の物件については、従来の路線価評価ではなく「購入価格(取得費)を下限とした評価」に切り替えるとされています。

重要な点は、2026年中に相続が発生した場合はどうなりますか?現在の改正案では、2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与(※評価通達で定める日以後の取得)から適用される見通しですということです。つまり、2026年中に相続が開始する場合は、現行制度での評価が適用されます。

相続予定者が今から取るべき対策

2026年度改正の影響を受けるのは、主に相続税対策として貸付用不動産の取得を検討している人です。既存の賃貸物件に関しては影響がありませんが、新規の不動産取得や相続対策の組み替えを考えている場合は、施行前の対応が有利になる可能性があります。

売却側の相続人にとっての実務上の注意点:

  1. 相続開始時期の確認 → 2026年中か2027年以降かで、相続税評価が大きく変わる可能性
  2. 被相続人が相続直前に賃貸物件を取得していた場合 → 旧制度で評価された相続税額が基準になるため、取得費加算額の計算に影響
  3. 複数不動産の売却計画 → 改正前後での相続税評価の違いを踏まえた売却スケジュール検討

よくある質問(FAQ)

Q1. 空き家特例と取得費加算の特例は一緒に使えますか?

いいえ、併用できません。空き家特例と「相続税の取得費加算の特例」とは併用できないため、どちらか一方を選択する必要があります。複数の不動産がある場合は、空き家特例が使える物件と取得費加算が有利な物件を分けて売却するなどの工夫が有効です。

Q2. 相続人が3人以上の場合、空き家特例の控除額は本当に2,000万円に減りますか?

はい。令和6年1月1日以後に行う譲渡で被相続人居住用家屋および被相続人居住用家屋の敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は2,000万円までとなります。ただし、これは相続人1人あたり2,000万円ではなく、物件全体で2,000万円になるという意味です。相続人が共有で不動産を取得した場合、共有者全体で2,000万円の控除枠となります。

Q3. 空き家特例を使うために、3年以内に必ず売却しなければいけませんか?

はい。相続が始まった日から3年が経過する年の12月31日までに売却する必要があります。この期限を1日でも超過すると、特例は使えなくなります。相続が開始した年が起点となるため、例えば令和8年(2026年)に相続が開始した場合、令和10年(2028年)の12月31日までが期限です。期限間近でも空き家のままなら、売却手続きの時間を逆算して準備を進めましょう。

Q4. 相続後に実家を賃貸に出したら、空き家特例は使えなくなりますか?

はい。相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付の用または居住の用に供されていたことがないことという要件があるため、賃貸に出すと特例対象外になります。相続後は必ず空き家のまま保有し、売却を前提とした管理が必須です。

Q5. 昭和56年5月31日以前に建築されていない家を相続した場合、空き家特例は全く使えませんか?

建築年が昭和56年5月31日以降の物件の場合、空き家特例は使えません。ただし、その家を自分が住んでいた場合は、自己居住用財産の3,000万円控除を検討できます。また、複数の不動産がある場合は、古い家は空き家特例で売却し、新しい家は取得費加算を活用するなどの戦略もあります。

Q6. 2026年の相続と2027年の相続で、税制改正の影響は異なりますか?

はい。2026年中に相続が発生した場合は、原則として現行制度での評価となりますが、2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から適用されるため、相続開始時期によって相続税評価が大きく異なります。相続税対策を検討中の場合は、相続予定時期と改正施行日の関係を専門家に確認することが重要です。


相続不動産の売却、判断に迷ったら

相続した不動産の売却は、3つの控除制度のいずれを選択するか、期限内に適切に手続きを進めるか、といった判断の連続です。要件を誤認すれば、数百万円単位の節税機会を逃しかねません。

特に複数の不動産がある場合や、被相続人が老人ホーム入居中だったケースなど、状況が複雑になるほど、個別の専門判断が必要になります。相続不動産の売却を検討している場合は、税理士・司法書士・不動産会社による専門家チームの連携で、あなたの状況に最適な戦略を立てることをお勧めします。

株式会社HAYATOは、横浜を中心に不動産売買・相続・空き家相談に対応し、弁護士や税理士といった専門家チームと連携して複雑な相続や空き家相談に対応しています。遠方の物件についても現地調査から適切な活用・売却まで対応可能です。相続不動産の売却について、具体的な状況を踏まえたアドバイスが必要な場合は、お気軽にご相談ください。